──『最後まで、誇り高く在れ。』
声だけ届く指揮管制官と、
名を持たぬ戦死者たちの、86日間の記録。
全 85区画 の行政区から成る連邦共和国。首都は第1区 「リベルテ・エト・エガリテ」(自由と平等)。かつては多民族国家として栄えたが、隣国ギアーデ帝国の侵攻を機に、白系種 アルバ 以外の全有色種 コロラータ を人外として扱う差別政策を断行。国民には「戦死者ゼロの平和」と虚報し、壁の内側で偽りの日常を享受している。
大陸屈指の軍事大国。完全自律無人兵器 「レギオン」 を世界初で開発し、周辺諸国に一斉宣戦布告した侵略国家。しかし投入後まもなく国内で革命が発生し、帝国そのものは 自壊。主を失ったレギオンだけが、最後の命令「敵性勢力の殲滅」に従って進軍を続けている。
世界初の 完全自律無人戦闘機械。流体マイクロマシンによる神経網と優秀な自律AIを搭載し、戦術判断・自己増殖・学習を行う。斥候型〈アーマイゼ〉から列車砲型〈モルフォ〉まで多数の戦闘型を擁し、編隊戦を展開する。最も恐ろしいのは、戦死者の脳を取り込み "死霊の声" として蘇らせる 能力 ──。
共和国が「無人」と虚報して投入する 多脚戦闘機械。実際は人間が搭乗する有人兵器であり、装甲は紙、推力は不足、操縦者の生還は計算に入っていない。搭乗者 プロセッサー は誰もが死を覚悟し、自機に仲間の遺品の金属片を刻み続ける。
共和国85区の外、"存在しない" 第86区に追放された有色種の総称。市民権はすでに剥奪されており、人型の豚 と呼ばれる。戦死してもカウントされないため、共和国民からは「人類はまだ一人も死んでいない」 ── その一文を永遠に守る盾として使い潰されている。
人類が共有する潜在意識を媒介し、聴覚を中心に知覚を直接接続する特殊通信技術。地形・電波妨害の影響を受けない。戦場の86と、後方の指揮管制官 ハンドラー は、この装置ごしに "声だけ" で出会い、戦い、別れる。
黒髪に紅の瞳、首に空色のスカーフ。16歳のスピアヘッド戦隊長にして、数々の前線を渡り歩いた 死神。亡霊の声を聞く異能を持ち、仲間たちの最期を看取る者としての役目を、一人背負い続ける。その静けさは諦めではなく、あまりに深すぎる覚悟に似た何か。
サンマグノリア共和国軍少佐、16歳。父の遺志を継ぎ、エイティシックスを "人間" として扱うことを選んだ異端の士官。彼女はシンの声にすがり、シンは彼女の声に人間性の残滓を見た。後に共和国崩壊を経て、ギアーデ連邦で彼らと再び出会う ── 顔を合わせる、その日まで。
スピアヘッドの副長。夜黒種の少年で、シンの最も古い戦友にして "兄貴" の立場。誰よりも現実を見据え、誰よりも皮肉屋。彼の 「誇りのために戦う」 という冷たい哲学こそ、この部隊の背骨を支えている。
金系種の少年。部隊のムードメーカーで、スケッチブックに仲間の顔を描き留める習慣を持つ。後に摩天貝楼攻略戦で左前腕を失い、戦場を離れる ── 彼の絵は、死者たちの "もう一つの名前" として残り続ける。
部隊最高の狙撃手にして、シンを一途に想い続ける少女。その愛情は戦場で何度も彼女を狂わせ、何度も立ち上がらせる。引き金に込めた切なさの分だけ、彼女の弾道は真っ直ぐだ。
白銀の髪と優しい微笑みを持つ、部隊の "姉"。アルバとの混血ゆえに差別と愛憎の狭間で育った。戦場でも静かに花を摘み、仲間の墓に供える。誰より柔らかく、誰より遠くを見据えている少女。
レーナの親友で、パラレイドの研究主任。シンの幼馴染でもあった彼女は、幼き日に彼を 救えなかった 記憶を一生の荷として背負う。連邦亡命後、第86独立機動打撃群の知覚同調班主任として、彼らと再び並走する道を選んだ。
旧ギアーデ帝国最後の皇女。10歳にして滅びた王家の記憶を一人で背負う少女。知人の現在と過去を視る 異能を持ち、シンの中に自身の騎士キリヤの影を見出す。シンを「兄」と慕い、戦場から引き戻したいと願う、もう一人の主人公。
ロア=グレキア連合王国の第五王子にして、戦闘用レギオン "レルヒェ" を従える天才技術士官。飄々とした物言いの裏に、母マリアンナが遺した呪いを抱える。シンたちの戦いに戦略眼をもたらす、もう一人の貴種の子供。
戦死者ゼロの国で、
名前を刻み続けた少年たちがいた。
彼らは豚ではなかった。
── 最後まで、誇り高く、人間だった。